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 ヒシの異常繁殖
 

   津市のため池(大沢池)におけるヒシ(水生植物)の異常繁殖

 津市大里窪田町ある大沢池は、面積約8.9haの農業用ため池である。。池の西側にそそぎ込む小川から常時、水が流入し、水稲栽培の期間は東側の取水口から取水されている。雨量が多いときには、別に設けられた排水孔へ水があふれ出る。

 2006年8月に大沢池でヒシが池面を覆い尽くしているのに気付き、このようなヒシの異常繁殖によって、池の水質や生物などへの影響がどのようになっているのか、生態的な管理方法がないものであろうかという素朴な疑問から、その後、観察を続けている。

異常繁殖によって生じる問題

 ヒシなどの水生植物は、適度に繁殖し、枯死後に分解されている限り、窒素やリンを吸収し、夏の間、ため池の富栄養化を抑える働きがある。しかし、水生植物が異常繁殖してため池の水面を多い尽くすほどになると、それが枯れた時に大量の有機物が生じて沈殿し、水質悪化の要因となったり、異臭を生じることが懸念される。また、有機物が多量に溜まって腐るとヘドロとなり、これによってため池の酸素が消費されて魚類などの水生動物の生存に悪影響を与える可能性が考えられる(実際に調査すると、逆に小魚、エビなどは多かった)。

異常繁殖の原因

 ため池に生活排水や家畜糞尿等が流入し富栄養化すると、ヒシ、アオコなどの異常繁殖が起こることがある。

異常繁殖を起こさない「ため池」の管理方法

 ため池の富栄養化に伴うヒシなどの水生植物の異常繁殖を防止するための管理方法について究明する必要がある。1つ目は、生活排水、畜産廃棄物や畑地からの栄養塩類の流入を減少させる対策を採ることが重要だろう。2つ目は、下記のヒシの利用と関係するが、人による物理的な除去である。3つ目は、ヒシの繁殖を阻害する人以外の生物の評価と活用であろう。この生態的方法については、更に研究、検討を進めていく必要がある。

ヒシを生物資源として利用すれば異常繁殖の抑制となる

 ヒシの実はデンプンを含んでおり、佐賀県ではヒシの実を使って焼酎が造られ販売されている。ヒシの実はかつて食用にされ、三重県立斎宮歴史博物館の古代貴族の献立の展示でヒシの実が添えられていた。また、池を覆い尽くすような旺盛な繁殖をするヒシの植物体をバイオマス資源として利用できないものだろうか。生態系を管理する一環として、人によって持続的な利用ができれば、環境に悪影響を及ぼすような異常繁殖を多少とも回避できるのではないだろうか。

 (写真をクリックすると拡大します)
池を覆うヒシ群落。西側の岸から東側の堰堤側を撮影する。光線の加減か、ヒシが密集している場所は茶色に見える。
池を覆うヒシ群落を拡大して撮影した。ヒシの葉が水面を覆い尽くしている。
ヒシの群落の密度は、東側ではやや低くなり、水面が見える。
ヒシの葉と小さな白い花。茎の上方に浮き袋があり、葉を浮かせている。茎は池底に張った根から伸びている。
ヒシを岸に引き上げて、葉、茎、花を観察。茎の上部がふくらんで、浮き袋の役割をしている。葉に空いた小さな穴は、昆虫による食痕である。
棘を持ったヒシの実が、茎に付いている。ヒシは1年草なので、冬になると枯れてしまうが、春になるとヒシの実が発芽して、植物体となる。

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